大事なのは、極端でないモノやコト。
黒田:大学を卒業してからの進路を考えたときに、仕事って言っても営業くらいしか行けないんじゃないかって思いました。専門的なことを身に着けているわけでもないし、興味の持てない仕事に就きたいわけでもない。神戸に残って頑張って就職した先に、自分のやりたいことがない人生は嫌でした。自分が何をできるのか、そのときはわからなかったんです。
故郷で待っていた課題
黒田:実家が少し忙しくなってきたこともあって、帰って手伝うことを決めました。でも、僕が実家に戻ってきたころにちょうど、お酒が売れなくなり始めたんです。それまでは日本酒も売れてたんですけど、世の中的に売れなくなってきて、景気も悪くて、日本酒の価値が急激に下がった時期があって。
営業をしても売れないっていうことに気づいて、そこからは自分のところのお酒をもっと磨いて、質を高めないといけないと思いました。営業とかではなくて、自分でお酒造りを学んでやっていかないとって覚悟を決めた瞬間でした。
それからというもの、冬場は能登からきていた杜氏さんや蔵人さんたちと一緒に酒造りに参加しました。試行錯誤しながら勉強して、しばらくしてから自分で一から酒造りを始めたんですが、それまでに費やしたのは10年。故郷に戻ってきてから10年もの月日が流れ、ようやくの思いでスタートラインに立ったことを覚えています。
根幹にある「中庸」との出会い
黒田:大学生のときに「中庸」の考え方を知って、ハッとしました。若いころはそれなりに尖っていて、こうじゃなきゃダメだってストイックになったりもしたんですが、『リトル・ブッダ』という映画に出会って、追い込みすぎないことも大事なんだと思いました。この考え方は今も持っていて、中庸という言葉が自分にとってのストッパーになってくれています。
冷静に考えて、判断する。そこまで極端なモノやコトじゃない、むしろそういった存在が大事なんだって気づかせてくれた、自分にとっての指標になる言葉でした。
社名「千代鶴」の由来
黒田:僕の曽祖父が日露戦争から傷ついて帰ってきて、療養していたときに、家の裏手にある田んぼにタンチョウヅルが舞い降りてきたことが由来だと聞いたことがあります。
曽祖父が戦争で感じた人の命の儚さや、自身が苦しいときに舞い降りてきた鶴から、千代鶴という縁起の良い名前を取った。きっと、そこには永遠に平和や幸せを願う、曽祖父の想いもあったんじゃないかと思います。
僕も、そんな想いが詰まった酒蔵があったから収まった部分はあって、それ以外のスキルは何でも中途半端なんです。音楽は好きだったけどそれで食べていけるわけじゃないし、クリエイティビティな仕事にも興味はあったけどどうやったらなれるかはわからなかった。
実家に帰ってきて、都会とは違う時間の流れで生活して、それでも地に足はついている、重力を感じる場所で。酒造りの仕事をしているときには全く気付かなかったんですけど、仕事から離れてふとしたときに、「あぁ、自分にはこれがあったんだ」って、改めて気づかせてもらえました。
〒936-0857 富山県滑川市下梅沢360
「千代鶴酒造」℡ 076‐475‐0031
営業日:月~土 9:00‐18:00
定休日:日曜日
Instagram:千代鶴酒造(@chiyozuru_jp)